見えない力を見せる監督
2018-05-20



 是枝裕和監督の『万引き家族』がカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞したという。
 『ワンダフルライフ』以来、できるだけ劇場で観るようにしている数少ない監督の一人だ。彼は、目に見えるものだけではなくて、見えないもの、見つけにくいもの、見つかりにくいものを繰り返し繰り返し映像で表現してきた。この人が関心を寄せる物語には、生者死者を問わず、切れてしまった“つながり”を蘇らせるものが多い。それは、人と人との関係性を見つめ続けたドキュメンタリー作家ならではの“センス”だと私は考えている。
 3年前、NHK「クローズアップ現代」の“やらせ”問題に関連し、自民党の一調査会が非公開でNHKに説明を求めたことを「BPO(放送倫理・番組向上機構)」は厳しく非難した。その時、決定を出した放送倫理委員会の代表代行であった是枝氏は、「一個人」として長文のメッセージを公開し、「公権力」が「放送」に介入する危険性を放送法制定の歴史的な経緯から詳細に論じながら、メディアの自立と自律の必要性を語った。放送人としての気概を感じさせる文章は今も記憶にある。
 前作『三度目の殺人』はベネチアのコンペに出品されたが受賞はならなかった。それは、あの映画の重要な一シーンの意味するものが、日本人でさえ、見つけにくく見つかりにくいものであることと関係がある。「公権力」という見えないものへの態度が、この国のあらゆるところに見い出せるようになった今だからこそ、カンヌの審査委員は気付いたのだと私は思う。
[映画]

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