“応答せよ”の時代
2019-07-03


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韓国語の聞き取りの練習ではないのだが、年に2,3回韓国のシリーズドラマ(日本語字幕)を録画してみている。いずれも16〜24話程度で完結する1クール(週2本で四半期)のドラマシリーズが多い。一つには、日本のドラマは旧知のディレクターから送られてくる番宣ハガキぐらいしか事前に知ることがないが、韓国ドラマに関しては今観ているものが終わりかける度に、“いまから見られる韓国ドラマ”というWebサイトで手軽に数ヶ月先の情報を得やすいからである。もちろん、大衆消費社会で少子高齢化や経済格差が進む日韓共通の問題が描かれることや、関心がある隣国の歴史上の人物を史劇で追ったりすることへの興味もあってのことだが、いわばそれが定例化している。
 そんな視聴習慣で先月から観続けていたシリーズが終わった。『応答せよ1997』という2012年に韓国で放送されたドラマである。後に続編というか、似たような設定で作られた『応答せよ1994』『応答せよ1988』という二つのシリーズがあって、いずれも韓国では大変な人気を博した。タイトルに年代が入っているということは、現代からその時代を振り返ってみるという設定がある。1980年代後半から90年代にかけて、民主化やソウル五輪・文民政権・地域主義・通貨危機などという激しい歴史のうねりの中で、若者を中心に巷の人々がどのような暮らしを送ってきたかを、ややコミカルに描いている。気まずい場面になると必ず「めぇ〜」という羊の擬音で締めるところは、厳しい時代へ回顧する時のクッションと言えるかもしれない。
 私が観たのは1994→1988→1997の順番だが、韓国での元々の放送順は年代を遡っている。それは、この国の民主主義の成熟と並行して、視聴者が苛烈な過去を順に遡って回想できるまでに自信を回復したこととつながるように思えた。ドラマの主人公はいずれも若者たちだが、その中心となる主な生活環境が変わっている。最初は高校と自宅、次が大学と下宿、最後が近隣と地域社会という風に少しずつその描く範囲が拡がっている。また、中心メンバーの周囲に芸達者なワキ役を揃え多様な人物像も描くようになったのは、シリーズとしての高評価で予算が増えただけではないだろう。幅広い年代に観てもらいたいという制作陣の意気込みが感じられる。その意味で『1988』の邦題に“恋のスケッチ”と付けたのは理解しがたいことだった。
 日本のドラマは脚本家の作家性が強く、シリーズ化の際に大幅なキャスティングの変更が無い。“和”(安定?)を志向する視聴者が多いことも影響しているのだろうが、韓国では視聴者が積極的に介入しドラマの筋立ての変更につながることも少なくないと聞く。そうした点が、ドラマの背景に社会を移し込むノウハウに長けている理由かもしれない。
[メディア]

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