混乱する時代の子供たち
2020-05-04


先月放送されたNHK Eテレ「100分de名著」の『ピノッキオの冒険』。録画しておいた4回分を観終わった。19世紀末のイタリア統一後の混乱した社会から生み出された児童文学は、私たちが子供の頃に親しんだディズニーのアニメ物語『ピノキオ』とは似ても似つかぬ不条理の文学作品だった。産業革命後のヨーロッパに拡がった大衆社会のイタリアで、初めて創刊された児童雑誌「こども新聞」に連載された当初、唐突な幕切れに子どもたちが連載再開の声を挙げたという。貧困や児童売買・暴力など多くの社会不安をも背景にして描かれた原作が、アメリカで単なる冒険ファンタジーへと改編され世界中で受容されてきた。
 原作者のカルロ・コッローディは教科書の執筆者でありながらギャンブル依存症でもあり、ピノッキオが繰り返し破滅的な境遇に置かれる様は、連載当時の揺れ動く近代大衆社会の荒波を受けているようにも見える。一方で子供が大人になる過程が、様々な試練や登場人物との関係の中に描かれており、人間的な“成熟”というものを考えさせてくれる作品にもなっている。新しい社会に馴染めない子どもたち、いや巷の人々にとっても、ピノッキオが経験する冒険譚の一コマが先の見えない世界に一歩踏み出すための勇気を与えてくれるかもしれない。解説の和田忠彦氏本人による新訳が岩波文庫から近く出るらしい。
[メディア]

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