師の影を踏まない社会的距離
2020-05-18


Zoomによるオンライン狂言ワークショップも昨日で4回目。紹介されたのは『重喜』という演目。寺の住持が翌日の結願の準備に弟子(重喜:じゅうき)に頭を剃らせようとするが、粗忽な若僧(にゃくそう)は剃刀を手に住持へぶつかってしまう。「弟子七尺去って師の影を踏まず」と諭され影を避けるものだから近づけず、今度は剃ることができない。仕様がないので長い棒の先に剃刀を取り付け剃ろうとするが、勢い余って住持の鼻を削いでしまうという話である。その昔(今でも?)理容店で使われていた皮砥(かわと)で剃刀を研ぐような所作が面白い。
 七尺といえば、ちょうど今話題にもなっているソーシャルディスタンスの対人距離2mにあたる。私が覚えている「三尺下がって師の影を踏まず」の倍以上だが、中国唐時代の仏典には用例があるようだ。いつから短くなったかは不詳だが、安土桃山時代の俚言には“三尺”とあることを講師の奥津さんから教えてもらった。影を踏まないほどの師弟関係が復活することはないだろうが、距離を取る社交術から新しい俚言(諺)が生まれてもおかしくないだろう。
 “七尺離れて飛沫かからず”はまだしばらく続く。
[読書]

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