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地元の日本語教室も7月下旬から長い夏休みに入りました。その間、普段はできない少し難しめの課題を試す意味もあって、3回ほど行うオンラインの補習には文学作品を取り上げています。昨年はサン・テグジュペリの『星の王子さま』、その一部分を読んでコミュニケーションにおける言葉と身振り・素振りについて語り合いました。今年はもう少し踏み込んで、村上春樹の小説『氷男』を読んでいます。
高校の国語教科書(「探求 文学国語」)にも採り上げられた怪異譚ですが、“南極語”なる言語まで出てきて、短いながら様々な解釈が生じる作品になっています。なにせ、“氷男”というぐらいだから夏にはうってつけですし、『聊斎志異』や『雨月物語』のように世の不思議・不条理を感じて、読めば少しは涼しくもなろうというものです。
一方で、社会の片隅にいて、その存在を知られているにも関わらず世間的な交流が無いところは、一種の国内“難民”にようにも見えます。90年代初頭に書かれた作品の背景はまだSNSなどのネット世界が拡がっていなかった時代ですが、マス・メディアにも採り上げられることなく忘れられていった“氷男”は、まるで都市伝説を描いた物語にも思えてしまいます。
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